The Atlas
身体で操る作品を作るとき、選べるものは三つあります—— 絵をどう作るか、音をどう作るか、そして身体をどこへ写すか。 この三つの掛け算が、その作品の正体です。
このページはその全域を描き、連作 STUDIES がその中のどこに立っているかを記したものです。 選ばなかったものの方が、選んだものより多くを語ります。 それぞれの手法は、押すと動いて触れる見本になっています—— 手法の性格は動きに出るので、止め絵では地図になりませんでした。
三つの軸
画面の点が「何でできているか」。線なのか、流体の一格子なのか、粒なのか、立体の表面なのか。 ここを変えると、同じ動きでもまったく別の世界になります。
音の一標本が「何から生まれるか」。物体の共振なのか、声道の共鳴なのか、 録音の切片なのか、学習した模型なのか。音色の限界はここで決まります。
身体のどの量を、何に繋ぐか。いちばん語られないのに、いちばん決定的です。 同じ絵と同じ音でも、写像が違えば楽器にも玩具にもオブジェにもなります。
描画の全域
絵の作り方を、道具(Three.js/WebGPU/…)ではなく「点が何でできているか」で分けています。 道具は入れ替わりますが、この分類は入れ替わりません。 見本はすべてこのページの中で生成しています——画像ファイルも外部ライブラリも使っていません。 連作そのものと同じ規律です。
音の全域
音も同じく「一標本がどこから来るか」で分けています。見本の多くは各手法が作る 倍音の構造(横軸=周波数、縦軸=強さ)で、これが音色の正体です。
写像の全域
身体の量を、音や絵の何に繋ぐか。ここだけは「全部やる」が答えになりません—— 繋ぎすぎると、演者は自分が何をしたから何が起きたのか分からなくなります。 一つの作品で意識的に扱えるのは、およそ三本までです。
| 身体の量 | 取れる精度 | 繋ぎ先の候補 | 使っている作品 |
|---|---|---|---|
| 位置 | 高い(±2%) | 音高・空間・明るさ | 01 張(弦の長さ→音高)/02 声(頭の高さ→音高) |
| 速度 | 高い | 強さ・励振・粒の量 | 01 張(横切る速さ→撥弦の強さ) |
| 形 | 高い | 和音・音色・種類 | RESONA(指の組合せ→和音)/02 声(口の形→母音) |
| 向き | 中(顔のヨー・ピッチ) | 定位・視点・傾き | 07 眼(顔の向き→引力の中心) |
| 静けさ | 高い(動きの分散) | 結晶・収束・静寂 | 03 静/07 眼(見つめ続け) |
| 左右差 | 中(表情の非対称) | 二声・分岐・偏り | 08 華(片方ずつの笑みが別の花) |
| 二人の関係 | 中(距離・同期) | 協和・干渉・引力 | 04 間(ふたりのあいだ) |
| 呼吸・声 | 中(マイク要) | 励振・揺らぎ・強弱 | 06 息(倍音が当たった弦が鳴る) |
| 持続 | 高い(時間そのもの) | 成長・蓄積・熟成 | 09 育(保った時間のぶんだけ枝が伸びる) |
| 力み | 低い(推定) | 歪み・張力・色温度 | 未使用。約束できるほど確かには取れません |
連作の現在地(全20作+響)
二十の作品と響(RESONA)の全貌。身体のどの量を、どのような描画と音響手法に繋いでいるかの完全な体系です。
| 作品 | 描画手法 | 音響手法 | 身体の写像 | 状態 |
|---|---|---|---|---|
| 00 響 RESONA | 3D空間フロー・極細サイン波 | 倍音共鳴・減算合成 | 10本指の開閉・うねり | 完成 |
| 01 張 TENSION | 弾性弦・筆致 | 物理モデル撥弦 | つまみ・横切る速さ | 完成 |
| 02 声 VOICE | フォルマント幾何学 | 母音フォルマント合成 | 口の開き・頭の高さ | 完成 |
| 03 静 STILLNESS | 結晶格子 | 物理モデル共鳴 | 静けさ(微動の停止) | 完成 |
| 04 間 BETWEEN | ふたりのあいだの場 | 協和音・干渉 | 二人の相対距離・同期 | 完成 |
| 05 墨 INK | 墨の浮遊・水彩拡散 | 指本数による36色溶解音 | 触れる・指の組み合わせ | 完成 |
| 06 息 BREATH | 気流の筆致 | 実世界マイク倍音共振 | 声の倍音・息の強弱 | 完成 |
| 07 眼 GAZE | 視線引力パーティクル | 加算合成シマー | 顔の向き・瞬き・見つめ | 完成 |
| 08 華 BLOOM | SDFレイマーチ・流体三相 | 撥弦+シマー/FM金属 | 笑みの左右差・手の振り | 完成 |
| 09 灯 SPARKLER | 枝分かれ火花・火球力学 | 帯域雑音+落ちる正弦 | つまみ・持続 | 完成 |
| 10 塊 MASS | 陰影微粒子群(被写界深度) | 二声の合流 | 手の加速度・引力集合 | 完成 |
| 11 生 CREATURE | 柔らかな生命体メッシュ | 生体加算合成+撥音 | 遅れ・弾性揺り戻し | 完成 |
| 12 泡 BUBBLE | 薄膜干渉・分散シャボン膜 | 帯域通過雑音の掃引 | 指先の速度・本数 | 完成 |
| 13 硝 GLASS | 二重屈折・分散ガラス塊 | 共鳴体うなり音 | 両手の相対回転・ねじれ | 完成 |
| 14 砂 SAND | 確率的ディザ・墨密度 | 音程なき質感雑音 | 手の握り・高さ・開き | 完成 |
| 15 潮 TIDE | 浅水波紋グリッド | 減衰水面共振 | 水面の撫で・押し込み | 完成 |
| 16 噛 MUNCH | 捕食生命体シミュレーション | 咽頭共鳴・咀嚼パルス | 口の開閉・スマホ連携 | 完成 |
| 17 晶 CRYSTAL | 多面体結晶の成長 | 金属非整数倍音ベル | 3次元回転・指の伸展 | 完成 |
| 18 群 FLOCK | Boids自律群生エージェント | 多声群生ポリフォニー | 手の誘導・拡散ジェスチャー | 完成 |
| 19 網 SYNAPSE | 神経網・不応期パルス | 活動電位パルス音 | 節のつまみ・自発発火 | 完成 |
| 20 擬 ONOMA | 運動タイポグラフィ・衝撃波 | 物理音響オノマトペ合成 | 身体アクション・ポーズ | 完成 |
未開拓の表現領域(次なる地平)
現在の二十作のさらに先に広がる、身体と計算の未踏領域。今後の連作拡張や大型インスタレーションで開拓可能な領域です。
頭部伝達関数(HRTF)による360度立体音場。演者の頭部トラッキングと連動し、音が身体の周囲を実際に回転・飛翔する体験。
混ざり合わない水と油、高粘性流体のリアルタイム力学。両手で空間の粘度を直接こねるような触覚的視覚。
インカメラによる微細な顔色変化から心拍数・呼吸周期を推定。演者の生命リズムそのものがアートの脈動となる究極の呼応。
選ばなかったもの、とその理由
いくつかの手法は、長く検討したうえで採っていません。判断そのものを残しているのは、 ある手法が身体で操る作品に合わない理由が、それ自体ひとつの発見だからです。
最も新しく、最も見栄えがします。ただしこれは撮影した現実を眺める技術であって、 身体で動かす技術ではありません。数十MBの資産も要ります。 連作の主題(身体が原因である)と噛み合いませんでした。
美しいのですが、身体との因果が読み取れません。煙は何をしても煙のままで、 演者は自分の動きが何をしたのかを学べません。
音色の自由度は最大ですが、応答が数百ms遅れます。それはこの連作では致命的です。 すべての作品が「触った瞬間に鳴る」ことで成立しているからです。
この地図は、身体と計算が織りなすインタラクティブ・アートの全域を探求する体系図です。
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